『INDUST』2021年2月号 No.400

太陽光発電設備の大量廃棄に備えて

 2012年にスタートしたFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)で一気に普及した太陽光発電システムだが約20年の耐用年数を考えれば、2030年以降に大量に廃棄されることが予想される。経済産業省の試算によれば2030年太陽光発電パネルの廃棄量は2020年比の10倍にあたる3万tにまで増加し、39年には最終処分量の6%を占めるとされている。さらに、台風などの災害により機能を停止しているパネルも散見され、耐用年数を待たずに廃棄されることも考えられ、埋立処分場への負担を可能な限り回避させるために、有効な回収、資源化技術を確立し、整理しておく必要がある。2月号では2021年に第2段階に入る太陽光発電設備のリユース、リサイクル、適正処理に向けたロードマップの進捗状況を説明するとともに、使用済太陽発電パネルの回収、リサイクルシステムの解説や事業化の事例、海外の取り組みや事故の事例などを紹介する。

特集

  • 環境省「太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン(第2版)」の留意点
    編集部

     2012 年のFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)の導入を契機に進んだ太陽光発電。使用済等で排出される太陽光発電設備は普及数に比例して加速度的に増加することが想定され、太陽光発電設備のリサイクル等については環境省が 16 年4月に解体・撤去、収集・運搬、リユース、リサイクル。適正処分に関する関係者の役割・留意事項を「太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン(第1版)」を公表した。その後、太陽電池モジュールに鉛等の有害物質が含有している可能性があることから、17 年2月に中央環境審議会廃棄物処理制度専門委員会が、太陽電池モジュールが安定型5品目から除外されていることを明確化し、原則として管理型最終処分場で埋立処分すべきであることを指摘。さらに、同年9月に総務省が環境省に対し、損壊パネルに対する対応の周知徹底、有害物質情報を容易に確認・入手できるような措置、 排出事業者から産業廃棄物処理業者への有害物質情報の提供義務の明確化、適切な埋め立て方法の明示を求める勧告を行った。こうしたことを理由にガイドラインが見直され、18 年に第2版のガイドラインが作成されている。ここでは第2版のガイドラインに沿ってとくに、第2版で追加された有害物質等の情報伝達に関することや、埋立処分方法の明確化、被災した使用済太陽光発電設備を取扱う際の注意点について紹介。また、太陽電池モジュールについてはリユース、リサイクル、埋立処分など、処理の全体像を示しながら環境省が示すポイントを解説するほか、同省が実施している太陽光パネルのリサイクルに関する支援事業についても紹介する。

  • 循環型社会の構築に向けた低コストのリサイクル技術
    ── NEDO「太陽光発電リサイクル技術開発プロジェクト」から
    編集部

     太陽光発電の導入量は 2019 年3月末時点で 49GW(内訳は住宅〈 10kW未満〉が 11GW、非住宅( 10kW以上)が 38GW)を超え、20 年3月末時点では約 56GWになっている。一方、太陽光発電設備のリサイクル技術開発はNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が示す「太陽光発電の開発戦略 NEDO PV Challenges2020 」のなかの課題の一つとして取り上げられ、「太陽光発電リサイクル技術開発プロジェクト」で進められている。NEDO新エネルギー部太陽光発電グループ主査の嶋田聡氏に「太陽光発電リサイクル技術開発プロジェクト」での取り組みを聞いた。


  • 太陽光発電設備の廃棄費用等の確保について
    ── 制度化の議論の経緯と求められる対応
    早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科 教授  小野田 弘士

     本稿では、「総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会新エネルギー小委員会太陽光発電設備の廃棄物等費用の確保に関するワーキンググループ」での議論の経緯の要点を述べ、太陽光発電設備の廃棄費用等の確保の制度化のポイントを整理する。また、トレーサビリティの確保等デジタル化への対応を念頭においた太陽光発電設備の廃棄物処理・リサイクルシステムの必要性を提言する。


  • 太陽光パネルのリサイクルシステムの普及を目指して
    廃ガラスリサイクル事業協同組合 理事長  狩野 公俊
    共同執筆・技術担当 宮脇 賢一

     気候変動問題は既に後戻りできない段階に突入しており、脱炭素化の流れは国内外問わず今後さらに加速する。太陽光発電は脱炭素化に向けた有効な解の一つではあるが、一方で急速な普及により将来の大量廃棄の問題を抱えることとなった。本稿では特に太陽光パネルのリサイクルに関しての背景や求められる技術を考察する。さらに当組合が提案する課題解決に向けてのリサイクルシステム構築への取組みと顧客への提供価値について紹介する。


  • 使用済み太陽光システムのリユース、リサイクル事業
    ハリタ金属株式会社営業企画本部 営業企画グループ
    カスタマーコミュニケーションチーム CSR 推進ユニット
    室崎 早紀子

     近年、地球温暖化対策等で太陽光パネルの普及が飛躍的に伸びている。しかし普及と同時に将来は廃棄量も飛躍的に伸び、環境への影響が懸念されている。太陽光パネルの素材は、ガラス、金属、貴金属、プラスチック等で構成されており、高度で低コストのリサイクルシステムが必要とされている。この度我々が取り組んできた大量廃棄時代に対応するための大量処理型リサイクルシステムの研究成果を紹介する。


  • ホットナイフ分離法(R※マルアールのマーク)による太陽光パネルのガラスと金属の完全リサイクル
    株式会社エヌ・ピー・シー事業本部
    装置関連事業部 副事業部長 
    松本 健司

     FIT制度により太陽光パネルの導入量が急速に増加した一方、将来的には大量の使用済パネルが排出されると予想されており、その適正な処分やリサイクルのための体制づくりは急務である。当社はパネルを製造するための装置一式を世界 50 ヵ国以上へ提供してきた実績から、製造とは逆の解体という視点から見直し、将来的に急増する廃棄パネルの処理問題について、低コストで効率的なパネルのリサイクル研究開発を進め、事業化に成功した。


  • 使用済み太陽電池モジュールの適正処理に係る 諸外国の制度と動向
    株式会社野村総合研究所
    社会システムコンサルティング部 
    島村 安俊

     太陽光発電システムは、低炭素社会の形成や国産エネルギー資源の拡大等を目的として導入が進み、現在では一般家庭の屋根からメガソーラーまで幅広い場所で運用されている。太陽電池モジュールは、製品寿命や不具合・故障等で運用を終えた後に廃棄物となるが、その排出量は加速度的に増加すると予想されており、2030 年代後半には約 50 ~ 80 万t/年が排出される見通しである。大量廃棄に備えて、使用済み太陽電池モジュールのリユース・リサイクルによる廃棄物減量化等の体制構築や広域収集網の整備等が早期に求められる。


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